「愚者」の読み方
マルセイユタロット「愚者」
LE・MAT

象徴
- 宮廷道化師の格好をした男が、見渡す限り何も見えない荒涼とした大地を歩いている。右手に持った棒を杖にして、肩には小さな荷物を担いでいる。荷物の中身は、役に立つものかもしれないし、全く役に立たないものかもしれない。
- 番号の無いカード。0として扱われるカード。0は無、実存しない数字とも言われる。
- お供の犬は、彼を引き留めようとして噛み付き、ズボンに爪を立てて引き裂いてしまっている。しかし、彼は犬の行動を全く気にせず、歩みを止めない。
象徴解説
- 彼が皆を笑わすために愚者を演じる道化であるならば、彼の本当の能力を知る者は、まだいないかもしれない。彼は愚者を演じるのをやめて旅に出たのだろうか? それとも、理性や判断力、倫理、社会性などを失った本物の愚か者が、ただ目的も無く放浪しているだけなのだろうか?
- 無造作に担いでいる小さな荷物の中には、彼がこれまでの人生で学んだ貴重な経験、知恵、知識が記され詰まっているが、その価値に全く気付いていない。右手に持つ棒は、生命力の象徴であり火のエレメントの力を持つ棒だが、今は何の力も無い、ただの棒だ。彼は、自分の持つ貴重な経験に気付き、自分の持っている道具の使い方を学ばなくてはならない。
- 番号が無く、「無」であり「0」である愚者は、1番から21番まで続くタロットカードの秩序、因果関係から外れた存在で、これまでの世界を外れて新しい世界へ遷移できる可能性を秘めいている。
- 犬は愚者の旅の友であり、野生の本能、直観の象徴だ。愚者の気が付かない危険を察知し警告しているが、愚者は危険(リスク)を全く気にしていない。
元型
- エゴ(自我)
人が知覚、認識できる唯一の元型。個人の意識的行動や認識の主体。顕在意識。
心の発達や変容作用の根源的な原点となる元型を「セルフ(自己)」といい、エゴ(自我=顕在意識)を含む広大な潜在意識の領域である。真の意識変革、行動変容は、エゴ(自我)を変えるるだけでは達成できず、セルフ(自己)が変わらなければならない。「愚者」は、セルフ(自己)へと至る旅をするエゴ(自我)である。
犬は、潜在意識下の動物的な本能領域の象徴で、エゴ(自我)が旅をつづけることを引き留めようとしている。潜在意識は恒常的で変化を嫌う性質を持ち意識的行動の妨げとなる時がある。例えば、「明日から規則正しい生活をしよう」と決意したような場合でも、「今まで通りの怠惰な生活を続けた方が楽だ」という意識が潜在意識下に存在している。この時に自我が潜在意識に打ち勝つためには相応に強い意志が必要であり、自我が潜在意識にコントロールされてしまえば、怠惰な生活を続ける結果になってしまう。 - トリックスター
既存の価値観に囚われない自由を象徴する元型。
破壊と創造。既存の常識、規範、秩序、価値をを破壊し新たな常識、規範、秩序、価値を創造する。荒唐無稽、神出鬼没で人々を騙したり感動させたりする奇術師。道化を演じる者。下等なトリックスターは混乱や無秩序をもたらす無法者だが、高等なトリックスターは停滞や悪化する現状を破壊し好転、進歩させ、新たな価値や秩序を創造する英雄となる本質を持っている。 - 永遠の少年/永遠の少女
純粋さを失わない精神の元型。積極的で肯定的で楽観的。
未熟、未発達な精神。無邪気。現実逃避。夢物語。社会不適合。 - ミラクル・チャイルド(始源児)
未来的性格の元型。未来の可能性。成長途中。発展途上。
未来志向の存在であり大いなる潜在能力を持っているが、成長途中で未熟なため周囲からの援助や協力を必要とする。
「永遠の少年/永遠の少女」も「ミラクル・チャイルド(始源児)」も、純粋で未熟、未発達であることは共通するが、両者の違いは、「永遠の少年/永遠の少女」が停滞したままであることに対し「ミラクル・チャイルド(始源児)」は、未来を志向する可能性であり、大きく成長していく潜在力を持つことである。
正の意味
- 何者にも縛られない自由。独立。解放。
- 無限の可能性。常に不変なものは無く全ては変化する。
- 現実社会の価値観や常識に縛られない。自由で完全な精神を持つ。
負の意味
- 考え無しの行動。優柔不断。能無し。
- 無目的。無関心。
- 無責任。逃亡。現実逃避。何をして良いか分からない。警告に気が付かない。精神疾患。
考察
- 愚者が何の目的も持たないで放浪する本当の愚か者なのか、愚者を演じることに終止符を打ち目的を持って旅に出た者なのかを見極めなくてはならない。彼は、どうして旅に出たのか? その目的、その理由が、カードからのメッセージであり、リーディングの答えとなる。
- 見渡す限り何も見えない場所を歩く愚者は、目標物が見つからず迷っているのか? どこへでも行ける自由の身なのか? それとも、目的地に向かって迷わず歩いているのだろうか?
- 料理人が使う匙(さじ)に、無造作に荷物を括り付けて担いでいる。肩に担いだ荷物も使い方が分からなければ何の役にも立たたないだろう。
- 火のエレメントの力を秘めている奇術師の使う棒も、使う能力が無ければ宝の持ち腐れだ。ただの棒と同じで杖にするぐらいしか使い道がない。
- 愚者は歩みを止めることなく歩き続けている。常に状況は変化し続け、同じ状況に留まることをしない。立ち止まらずに歩き続けることで良くも悪くも常に状況は変って行く。
